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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)332号 判決 1982年6月17日

原告

浮谷良作

被告

特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

原告は「特許庁が昭和55年9月29日、昭和53年審判第594号事件についてした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は主文同旨の判決を求めた。

第2請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和46年3月20日名称を「鋼製コンクリート型枠連結用クリツプ」とする考案につき実用新案登録出願(昭和46年実用新案登録願第19541号)をしたところ、昭和52年10月27日拒絶査定を受けたので、昭和53年1月18日、審判の請求をし、昭和53年審判第594号として審理されたが、昭和55年9月29日「本件審判請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年10月8日原告に送達された。

2  本願考案の要旨

U形部1、L形部2・3、U形脚辺/1・/2間の挾着用間隙部10より成る丸鋼Uクリツプにおいて、U形曲げ曲線aと間隙部形成用曲げ曲線bとを連続曲線とし、両脚辺/1・/2間にU形曲げ部aの内径よりも小さい間隙部10を形成した鋼製コンクリート型枠連結用クリツプ。

3  審決理由の要点

本願考案の要旨は前項のとおりである。

ところで、実公昭34年第5438号実用新案公報(以下「引用例」という。)には、「U形部、L形部、U形脚辺間の挾着用間隙部より成る丸鋼Uクリツプ」が記載されており、該UクリツプもU形曲げ部の内径よりも挾着用間隙部の方が小さいことが認められる。

そうすると、本願考案は、その構成において引用例に記載されたUクリツプと同一であり、引用例のものと考案として同一と認められ、実用新案法第3条第1項第3号の規定に該当し、実用新案登録を受けることができない。

4  審決の取消事由

引用例は本願考案において特定された、連続曲線で形成されたU形部の形状を有していない。しかるに審決はこれを看過し、本願考案を引用例に記載されたUクリツプと同一と誤つて判断したものであり、違法であるから、取消されねばならない。

すなわち本願考案における「連続曲線」とは、明細書に説明されているように、丸鋼棒をU形に曲げた後両脚辺/1・/2の間隙をせばめるに当り、第4図に示すようにU形折曲げ用円形型11にはめたままの状態で上記両脚辺/1・/2のU形曲げ部側基部を外側から、矢示のように型11の心oに向つて型11を抱き込むように押圧することにより、U形曲げ部aの内径よりも小さい挾持用間隙部10を形成したものである。

そして、この加工により形成されたU形曲げ曲線aと間隙部形成用の曲げ曲線bとを連続曲線と呼ぶ、と定義されているところのものである。

つまり本願考案のUクリツプは、特定された連続曲線a・bで形成されたU形部1と、曲げ曲線bで形成されたU形曲げ部aの内径よりも小さい間隙部10とにより、U形曲げ曲線部aの頂部に他部よりも大きい内部ひずみを生じていない内部構造の結合から成る構成を要件とするものである。

これに対し、引用例にはかかる形状は示されていないし、本願考案の目的・課題は開示されていない。

第3被告の答弁

1  請求の原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の取消事由の主張は争う。

本件審決に原告主張のような違法の点はない。

原告主張のように、本願明細書は「連続曲線」の形成手法をも併せて説明してはいるが、形成された考案の構成要件とする「連続曲線」は、結局、明細書の実用新案登録請求の範囲の記載で特定されているとおり、U形曲げ曲線aと間隙部形成用曲げ曲線bとを連続曲線としたものである。

また、引用例の丸鋼Uクリツプが審決で認定したとおり、U形曲げ曲線と間隙部形成用曲げ曲線とが連続曲線を形成していることは、その第4図ないし第7図がそれぞれUクリツプの使用状態(両脚辺の拡開状態)と非使用状態を示すものであることよりみて明らかである。

したがつて引用例は、本願考案における連続曲線で形成されたU形部の形状を有しており、同一であるとした結論に誤りはない。

第4証拠関係

原告は、甲第1号証、第2号証の1ないし5、第3号証、第4号証の1ないし4、第5号証ないし第7号証を提出し、乙号各証の成立を認めた。

被告は、乙第1号証、第2号証を提出し、甲号各証の成立を認めた。

理由

1  請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

2  そこで原告が主張する審決取消事由の存否について検討する。

成立に争いのない甲第2号証の1ないし5及び甲第6号証を総合すると、つぎのように認められる。

すなわち本願考案は、連続曲線に関し、その実用新案登録請求の範囲において、「U形曲げ曲線aと間隙部形成用曲げ曲線bとを連続曲線とし、両脚辺/1・/2間にU形曲げ部aの内径よりも小さい間隙部10を形成し」と特定している。なるほど考案の詳細な説明には、原告主張のように、特定の加工法によつて形成されたU形曲げ曲線aと間隙形成用曲げ曲線bとを連続曲線と呼ぶと定義されている。しかしながら、実用新案法において権利保護の対象となるのは、物品の形状、構造又は組合せに限られるばかりでなく、本件実用新案登録請求の範囲にも記載されていないのであるから、前記の定義による特定の加工法によつて考案の異同を論ずることはできない。

ところで引用例には、第4図ないし第8図に丸鋼Uクリツプが示され、そのクリツプの両脚辺はU字形屈曲部10から離れ、かつ、両脚辺の端部からも離れた部分に、挾着用の最も小さい間隙部が形成されているのであるから、前記両脚辺は曲線部分からなつており、その加工法は不明であるけれども、本願考案が前記認定のように特定の加工法によつて形成されたもののみに限定されるものでなく、また他に曲線についての限定がない以上、本願考案におる間隙形成用曲げ曲線bを備えていることとなり、また、この曲線と、本願考案のU形曲げ曲線aに相当する、U字形屈曲部10の曲線とは連続しているので、結局、引用例の丸鋼Uクリツプは、本願考案において特定された、連続曲線で形成されたU形部の形状を有しているといわねばならない。したがつて同一考案とした審決の判断に誤りはない。

そうすると原告の主張は理由がなく、本件審決を違法としてその取消を求める本訴請求は、失当として棄却するのほかはない。よつて、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(舟本信光 舟橋定之 八田秀夫)

<以下省略>

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